研究領域の現状 213
安全衛生管理室
戸 村 正 章(助教) (2004 年 6 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:有機化学,構造有機化学,有機固体化学
A -2) 研究課題:
a) 弱い分子間相互作用による分子配列制御と機能性分子集合体の構築 b) 新しい機能性電子ドナーおよびアクセプター分子の開発
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 有機エレクトロニクスの研究において,ホウ素原子の機能を利用した物質開発が注目されている。1,3-ジケトンB F2
構造ユニットを含む錯体は強い蛍光とともに高い電子受容性を示すことから,光増感色素や有機半導体材料として 期待される。そこで,トリフェニルアミン色素にこの錯体ユニットを導入した新規なドナー− π -アクセプター系有機 色素を設計・合成し,その構造をX線結晶構造解析により決定した。その光物性および電気化学的特性から,この 色素は色素増感太陽電池用色素として有望であることが明らかとなった。
b) ねじれた分子構造をもつ有機半導体材料を用いることにより,有機太陽電池の光電変換効率の向上や有機 E L素子 の高性能化が期待できる。そこで,4つの C F3基をもち,ベンゾ -1,2,5-チアジアゾール骨格が二量化した分子を設計・ 合成し,その構造,物性を検討した。X線結晶構造解析の結果,2つのベンゾチアジアゾール骨格間は大きくねじ れており,薄膜太陽電池の n 型半導体として機能することを見いだした。
B -1) 学術論文
Y. MIZUNO, Y. YISILAMU, T. YAMAGUCHI, M. TOMURA, T. FUNAKI, H. SUGIHARA and K. ONO,
“(Dibenzoylmethanato)boron Difluoride Derivatives Containing Triphenylamine Moieties: A New Type of Electron-Donor/π- Acceptor System for Dye-Sensitized Solar Cells,” Chem. –Eur. J. 20, 13286–13295 (2014).
B -7) 学会および社会的活動 学協会役員等
日本化学会コンピューター統括委員会 CSJ -W eb 統括的管理運営委員会委員 (2001–2002). 日本化学会広報委員会ホームページ管理委員会委員 (2003–2012).
C ) 研究活動の課題と展望
有機固体における電気伝導性,磁性,光学的非線形性などの物性の発現には,その分子固有の特質のみならず,集合体内 でどのように分子が配列しているかということが大いに関与している。そのために,このような機能性物質の開発には分子配 列および結晶構造の制御,すなわち,「分子集合体設計」というコンセプトが極めて重要となってくる。しかしながら,現状で は,簡単な有機分子の結晶構造予測さえ満足には成し遂げられていない。このことは,逆に言えば,拡張 π 電子系内に,水 素結合などの分子間の弱い相互作用を導入し,種々の分子集合体を設計・構築するという方法論には,無限の可能性が秘
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められているということを示している。今後は,水素結合のみならず,ヘテロ原子間相互作用・C–H···π 相互作用・立体障 害といった新しいツールによる分子集合体設計に取り組みたい。また,ハロゲン原子と窒素原子あるいは π 電子系との間の ノンコバレントな相互作用(C–X···N,C–X···π)は結晶工学上有用なツールとなり得る可能性を秘めているが,水素結合系と 比較してその報告例は少ない。そこでこれを用いた分子集合体設計にも注目している。さらに,合成された分子の分子配列 を決定づけているこれらの分子間相互作用の理論的な精密解析を行い,得られた情報に基づいてその構造や機能を理解す ると共に,これらの構造を再現しうるヒューリスティックな高速計算手法の開発を通じて,結晶構造の計算化学的な予測方法 を探求することを最終的な目的としたい。また,データマイニング的な結晶構造の解析にも興味を持っている。最後に,以上 のような研究活動と安全衛生管理業務の効率的な両立を常に念頭に置いている。